平成24年11月27日、『交通予防安全の今日的問題 −脳、眼、自転車、安全教育−』というテーマで、第16回「交通大学」を開催いたしました。
 今回は今話題となっている自転車の事故防止、そして脳と運転の問題をはじめて取り入れ、今後の交通予防安全について考えました。
 ご参加いただきました皆様には心よりお礼申し上げます。

 各講座の内容、講師など詳細はこちら

 
  


当日皆様からいただきました先生方への質問について、ご回答いただきましたので掲載させていただきます。


第1講座 朴啓彰 「生活習慣と大脳白質病変」
質問 先生からの回答
質問1

私は16年間1日20本の喫煙者ですが、本日の講演で「タバコが脳を侵す」ことがわかりました。
仮に本日より禁煙し、今後一切タバコを絶つ(一部の受動喫煙は除く)としたら健康な脳と体に戻れるのでしょうか?
また、それにはどのくらいの期間を必要とするのでしょうか?
飲酒は1日缶ビール1〜2本といった程度です。
いったんできた白質病変は、修復できませんので、元に戻ることはありません。ただ、喫煙者が全員白質病変を持つとは限りませんので、一度脳ドックなりMRI検査を受けることをお勧めします。
タバコも飲酒も、脳に対するダメージは個人差があるので、明白なことは言えませんが、私の経験上缶ビール1本でも脳萎縮が見られる方もおられます。
質問2

軽度の大脳白質病変が発見された場合に治療する方法はあるのでしょうか?(回復することは可能か)
また進行を止めることはできるのでしょうか?
白質病変を回復して、正常脳組織に戻すことは不可能だと考えています。ただし、原因となる動脈硬化性疾患である高血圧・糖尿病・高脂血症は治療すれば、白質病変の進行は止められると考えています。
質問3

白質病変は発病したら治療できるのでしょうか?
Q2と同様の答えです。
質問4

白質病変を疑う初期症状などがありますか?
脳ドックを受けないと分からないですか?
また白質病変になった場合どうすれば治りますか?
白質病変による高次脳情報処理の低下が生じると考えていますが、
初期症状としては自覚できないレベルだと思います。脳ドックを受けないと白質病変であるかないかはわかりませんが、喫煙者や動脈硬化性疾患を持っている人は、一度脳ドックを受けることをお勧めします。
白質病変は直りませんが、進行を止めることは可能です。


第2講座 朴啓彰 「大脳白質病変と運転機能の低下」
質問 先生からの回答
質問1

30〜40歳代の若年層でも脳の障害及び運転への影響はあるのか?
30-40代でも白質病変のある方には、運転適性検査で見られた
信号の見落としやアクセルブレーキの反応速度のばらつきが大きくなる傾向があるので、運転の影響があると考えられます。
質問2

白質病変している者に対して、運転の中止をアドバイスする方法は一般人には分からないので「もしかして病気?」を簡単に知る方法はないのか?
また、運転を継続するとなればどのようなアドバイスをすれば良いのか?
MRI検査をしなければ、白質病変があるかないかはわかりません。
将来もっと研究が進めば、白質病変に相関するものがわかれば、例えば脳波信号など、MRI検査を代用することも可能かも知れません。
白質病変ドライバが運転を継続する場合は、特に交差点など安全速度や左右確認に注意することに心がけることが大切だと思います。

第3講座 川島幸夫 「加齢と視機能の変化について」
質問 先生からの回答
質問1−1

高齢者講習において白内障術後のドライバーにおいて、夜間視力の検査を計測することは好ましいのでしょうか?





質問1−2

緑内障の診断をする上で検査はどのように行うのでしょうか?
1−1

高齢者の視力の特徴として夜間視力の低下や暗順応の低下が多く認められます。
これに対しては夜間視力の測定や暗順応検査が有用と思われます。
白内障手術術後で眼内レンズ挿入を受けている患者様は昼間の羞明(まぶしさ)や、夜間運転自動車教習所のグレア(まぶしさ)、ハロー(光の周囲に光の輪が見える)、ハレーションによるホワイトアウト(視野全体が真っ白になり何も見えない)を訴える場合があります。このような人達には夜間視力やグレア視力(目に明るい光を照射して視力を測定)の測定が有用と思われます。


1−2

緑内障の診断には、視力検査、眼圧検査、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査、視野検査、視神経乳頭や網膜神経線維層の三次元的画像解析などを行い総合的に判断いたします。
質問2

視野狭窄がまねく危険性をよく解ったのだが、どこが狭窄で欠けているかを計測するにはどうすればよいか。
高齢者講習では短時間の計測になるのでそこまでは発見できないのではないでしょうか?
計測方法があれば教えて欲しいと思います。
最も簡便な方法として対座法があります。
まず検者と被験者は対面に、距離1メートル程度のところに椅子等に座ります。
そして、被験者は両眼で検者の顔の中心部、鼻やみけんの中央部を固視します。
その後、検者は両手を左右側方約30°くらいのところに伸ばし、手の指を、両手同時、あるいは片手で動かし、どちらの方向の指が動いたかを被験者に答えさせます。
この容量で水平方向・垂直方向・斜め方向の6方向が簡便に調べることができます。

質問3

岡山県下では高齢歩行者が夜間にはねられ死亡するという事故が多発しています。歩行者が危険にも関わらず横断する、してしまうということは視野に関係している気がします。
今後は歩行者側の視野検査と事故にあう因果関係を調査発表していただければ幸いです。
夜間歩行者が道路横断するサイには以下の問題点が考えられます。
@高齢者は動体視力が悪いため動いている車両が認知困難
A高齢者は夜間視力が悪いため、周囲の道路状況の認知が困難
B高齢者は両眼視が悪いため、迫ってくる車両の認知が遅れる
C高齢者は緑内障や神経疾患に罹患している可能性が高く、その際視野欠損や視野狭窄を起こしていても自覚に乏しく、自分に近づいてくる車両を認知することができない
D高齢者は、加齢性白内障に罹患していることが多く、夜間対向車のヘッドランプにグレアやハレーションを起こし、ホワイトアウトの状態(目の前が真っ白に見えて何も認知できない)に陥り、近づいてくる車両が認知できない。
以上の事より事故予防の対策として運転しない高齢者の歩行者に対しても、視力・視野等を含めた眼科検診や神経機能を含めた内科検診の実施は必要と思われます。
その他高齢者は天候が悪い時や夜間は極力外出をしない。外出する時は付き添える人と複数で外出する。横断歩道や信号、歩行者専用道路、交通量の少ない道路をなるべく選んで歩行することが交通事故被災から自分を守る方法ではないかと思います。

質問4−1

個人でできる簡便な検査方法はないでしょうか?
(病気の種類毎や進行度を知る方法は?)









質問4−2

治療を受ける必要性の判断は?加齢で見えにくいのは仕方ないと思ってしまうのですが。
4−1
視野異常を検出する簡便なチャートが眼科にはありますので一度聞いてみてください。
中心暗や変視症(物が曲がって見える)を検出するアムスラーチャートがありますので眼科で聞いてみてください。
セルフチェックでおすすめする方法は毎回一定の時間、例えばテレビニュースの画面を一定の距離(2〜3m)から片眼ずつ見ていつも通り見えているかをチェックしてください。両眼で見ていては片眼の異常に気づかない事があります。
視野のチェックは対座法(質問2)で述べましたが、片眼ずつ自分の指を左右上下30°方向に出して指を動かしてその指の動きがわかるかセルフチェックする方法があります。テーブルに新聞を開いて(2ページ分)、片眼ずつ椅子に座った位置からながめて中心を固視したとき、周辺の大きな文字が大体見えるか、上下左右に見えない部分があるかをセルフチェックすることも可能です。


4−2
治療を受ける必要性の判断は、一般の方には困難だと思います。重大な疾患でも初期変化は微細なことがあります。何か異常があり、それが数日から数週間続くようなら、だんだん日を追って悪化する傾向があるなら、一度検診を受ける必要性があります。
検診の結果何か疾病があれば治療が開始されます。加齢の一現象や、正常範囲内であれば積極的な治療は必要ありません。


第4講座 岸田考弥 「今日の自転車問題について」
質問 先生からの回答
質問1

自転車の免許制度は現状難しいのは承知しております。一番の事故防止策とは思うのですが・・・。
であるならば、取り締まりを強化すべきです。
なぜ取締りが弱いのでしょうか?
警察の人員の問題でしょうか?
法を守った自転車運転者は一握り程度です。
免許制度がダメ、取り締まりも強化できないのであれば何か義務化を増やすべきだと思います。
1.自転車の免許制度は、国全体に導入するのは費用的に現状では困難です。しかし、世代別に工夫して導入するのは、できると思います。小学生には有効です。教育委員会と警察が連携して積極的に導入すべきです。中学生や高校生等は通学に自転車を利用する生徒に交通安全教育をして、試験をして自転車の免許証を発行するなどの工夫をして、自転車の免許制度とすることは可能です。これも教育委員会と警察が連携して実施すれば可能です。大学でも一部の大学で保険に入らなければ自転車通学させないという大学も出てきているので、地道にやればできると思います。但し時間がかかります。大人については、通勤に自転車を利用する人たちには企業と警察が連携して、交通安全教育をし、試験をして自転車の免許証を発行するなどの工夫をすることにより自転車の免許制度に代替するものとして機能すると思います。
 以上の案は、やる気になればできるものです。自転車免許制度は社会が受け入れるように持っていかなければ困難な問題です。

2.東京都では自転車にナンバープレート制度を導入し、自転車利用者の交通安全意識を高め事故を減らそうという試みを考えていますが、ツーキニストという自転車利用者からは、警察の天下り機構を作るだけだと反対されています。このように自転車利用者が積極的に自転車事故を
減らそうという取り組みにかかわろうとしない現状があります。今は出来ることはやってみようとする姿勢が大事です。さもないと事故を減らすのは困難です。

3.取り締まりの強化は、警察庁が各県警に指示をしています。警察官の人数を増やすのは、現状ではなかなか難しいので、すぐに取り締まりを強化するのは困難ですが、以前と比べると少しずつですが危険な運転に対しては取り締まりが行われています。もっとマスコミが取り締まりについて、報道することも必要です。実際に取り締まりするとなると、自転車は車両ですので、道路交通法を適用することになり、自転車の違反でもすぐに懲役三年等の厳しい罰となってしまい、小学生や高齢者の違反の取り締まりにはなじまないのが現状です。自動車と同じように反則金制度の導入が望まれます。

4.駐車違反の取り締まりを委託して、駐車違反を摘発して違反車両を道路から排除するのと同様に、自転車指導員制度を設けて指導取締りを
地域ごとにするのもよいと思います。都道府県単位でなくても、区市町村単位で条例を作って指導取締りをすることは可能です。要は、行政と市民の自転車問題に対する取り組み姿勢が問われているという事です。危機感を持って、やる気があればできます。

第6講座 矢橋昇 「交通教育の方向と手法」
質問 先生からの回答
質問1

本日の内容は小学生への教育の方法でしたが、車両を200台程度保有し、日々安全運行を願っております。
年齢の幅も広く、若年から高齢者までおり有効な安全教育の進め方について知りたい

企業内における運転者教育のキーポイントは、教育を受ける側、すなわち、従業員の方にとって、それが自分のためになると感じてもらえるか否かにあると思います。
運転業務を管理することは可能ですが、運転という行為そのものは、あくまでも自己管理の分野です。その自己管理をきちんと行ってくれるかどうかは、本人の生き方の問題であり、業務上の運転に関してはその人の就業意識、つまり、仕事に対する真剣みや遣り甲斐、職場への帰属意識、更には、同僚や上司との人間関係などの要素が絡んでくると思います。

大切なことは、まず、安全運転管理自体が、運転という危険作業に関わる従業員の安全への配慮という目的に立っていることです。そうした会社側の気遣いを運転に従事する人たちが感じとっていてくれるとしたら、会社が行う管理や教育を、素直に受け止めてくれるに違いありません。

あとは、当人の年齢や運転経験、業務経験、健康状態などに合わせて、極力個別の指導メニューに基づく助言や訓練を施していくのが有効だと思います。

企業における安全運転指導は、あくまでも業務研修の一つと位置づけることが大切でしょう。そして、もう一つの側面は、健康管理と類似した福利厚生の一環でもあると思います。健康診断を行い、その結果明らかになった問題への対応を考えていくのと同様に、個々の運転従事者が抱える問題を一緒になって解決し、安全に運転業務を続けていけるための学習とリハビリの機会を与えるといった考え方が、最も受け入れられやすく、且つ、成果につながる教育の道筋ではないかと考えています。